口述自伝制作〈ライフヒストリ良知〉でモデルとしている自伝が、勝小吉の《夢酔独言》と福沢諭吉の《福翁自伝》です。この《福翁自伝》には現代語訳版というのがあって、明治大学教授の斎藤孝さんが編訳をしています。

斎藤さんは、「この自伝に読む価値があるのは、偉人の本だからというわけではない。この自伝は、近代以降の日本人が書いた本の中でもっともよい本だと思っている。何より面白い。これほど面白い本は、もう書かれないだろう。というくらい面白い本だ。

これだけ面白い本であるにもかかわらず、実際に読んだ人が少ないというのは、何が原因なのか。まずひとつには、〈偉人の伝記〉ということで持ってしまっている〈先入観〉、そしてもうひとつは、〈見た目の敷居の高さ〉ではないかと思う。」と述べていますね。

確かにそうかもしれません。

とにかく、福沢諭吉は勉強も行動も破天荒で、このエネルギーを直に感じることができるのが《福翁自伝》の第一の楽しみ。もちろん、《福翁自伝》は、ただ面白いだけでなく、ここから多くのものを学ぶことができる。その中で最大のものは〈福沢スタイル〉というべきものでしょう。

諭吉は、自身の精神をカラリとしたと表現しているけれど、まさにその形容がピッタリ。諭吉には知性による明るさというものがあります。また、自分自身の気質というものをよく知っていて、それに合わせた自分の型を持っている。だから相手や状況に過度に振り回されずにすむのでしょうね。

〇借金はしない
〇自分は政治の下戸である
〇卑怯な真似は絶対に出来ない
〇血を見るのは大嫌い
〇自分の気質を曲げたところで事を成そうとは思っていない。
〇自分には大親友はいない。
〇自分ひとり孤立するようになっても苦しくない。
〇けっして後悔しない。
〇自分の考えを曲げてまでも気に入らない交際は求めない。

これらは福沢諭吉語録ですね。諭吉は一見冷めたように見える対象との距離の取り方が、抜群にうまい。自分の心とも過度に関わらない。それが自分自身とうまくやっていくための最大の秘訣になっているようです。それを元にして環境に対処していく。

諭吉の合理性とはそういう性質を持っていて、それがさわやかさ、バランスの良さ、そして〈結果〉に繋がっているのでしょうね。

確かに面白い本ですよ。現代語訳版の構成や文体などを参考にしながら、お客様だけの《福翁自伝》を数多く制作していこうと思っています。