ライフヒストリーの基本は、まず黙って聴くことです。

口述自伝を作成する際、語り手は語り慣れているような人であっても、実は、繰り返しが多かったり、要点がまとまらず長い言葉になったり、けっこう表現に苦労するケースが見受けられますね。

その際、注意しているのは、僕がその言葉を客観的にまとめてしまわないようにすること。語り手は、話をまとめるとけっこう賛同はしてくれますが、その方の語りや言葉でないので、自伝としての価値や魅力は半減してしまいます。

禁句なのは、例えば、要するにという言葉ですね。それを発した瞬間にライフヒストリーは語り手の文脈から離れていく。耐えないとね。その時代のことが明らかに間違っている場合は指摘しますが、その場合でも、話の腰を折るようなことは避けないとダメですね。なぜなら、その後の話が続かないことが多いからです。

文字起こしは技術ですね。〈ライフヒストリー良知〉では、聞き書き言葉という独自の表現方法で文章に落とし込んでいきますが、かと言って語りをそのまま起こすと全体的な構成がおかしくなるので、やはり必要な編集を行わなければなりません。そこがけっこう難しい。

ライフヒストリーの面白さは、自分で書いたら出てこないもの、或いは異なった形になっているものを聴くことや訊くことによって引き出すことにあると言ってもいいと思いますね。表情や言い回し身振りや手振りなどをしっかり確認しながら、編集していくのですよ。