私が、この口述自伝制作〘ライフヒストリー良知〙事業を展開する上で、教科書の一つにしているアメリカワシントン大学ジョン・メディナ博士が著した『ブレイン・ルール:健康な脳が最強の資産である』から、前回No414の続きを書き綴ります。
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結局のところ、人は年を取ると、体のあちこちが痛むようになり、その治療は年々難しくなり、また交戦地帯にいるかのように配偶者や友人が亡くなっていく。
加えて、自分がなぜここにいるのかわからなくなったり、自分の年齢や誕生日すら思い出せなくなる。
おそらく脳は、幸福感をご褒美として人を励まし、年齢を重ねても社会と関わるようにさせているのだろう。
人類を創造した神を敬うキリスト教の宗教観で例えるなら、これは「神の恩寵」であると言えるかもしれない。
若い時は、過去より未来を見る。
「ささやかな満足を良し」とする、今高齢になった人たちの若い時の行動を考えて見よう。若い頃は、満足を求める気持ちがとても強い。仕事に、金儲けに、人間関係に、恋愛に、夢の実現に活発に動いた。
多少のリスクや失敗なんかをものともしなかった。若い頃に眼中にあったのは過去ではなく未来なのだ。なぜならそれは、振り返えるほどの過去をまだ築いていないからだ。
そこから、徐々に効率を第一として、未来に向けて成功を維持し失敗を避けるための方法を探し出していく。そしてこの頃には、自分は永遠に生きられるという幻想は消える。それまでの人生で苦労して得たものを守ろうとする。
「死は人を追い立てる究極の皮肉だ」と言われる。年老いていくにつれ、現状維持という観点から自分を見ている。それは残された時間がもう限られているからだ。
従って、現在の幸福の方が、未来の報酬より大切だと思える。体がきしみ、友だちが死に、愛する人が去る頃には、夜に大好きな歴史ドラマを見て過ごすのがちょうどいいように、思うことになる。
つまり、年を取るとリスクへの嗜好が変わるのだ。高齢者がリスクを避け、ささやかであっても報酬を得ようとするのは、自分には報酬があまり残されていないことを知っているからだ。