南カリフォルニア大学の老年学者マーラ・メーザーと、スタンダード大学の長寿研究センター所長ローラ・カーステンセンの、『いいことだけを覚えていたい脳』、『高齢者が楽観的な理由』などの研究について、何回かに分けて述べます。
彼らは、「年配の人は若い人に比べて、ネガティブな感情を抱くことが少ない」ことを見い出した。
高齢者の脳は、一貫して「ネガティブな刺激よりもポジティブな刺激に注意を向けやすいこと、また、高齢者は不幸せな出来事より幸せな出来事を、より詳しく覚えていた」というもの。
ある実験で、若者(平均年齢24歳)と、高齢者(平均年齢73歳)を対象として、幸せそうな顔と不幸せそうな顔のどちらに注意を払うか(これを注意バイバスという)を調べた。
若者が幸せそうな顔を向ける注意は、バイアススケールで25点中の5点だった。不幸せそうな顔に向ける注意は3点だ。この結果は、若者たちが両方の顔にバランス良く適度な注意を向けていることを物語っていた。
それに対して高齢者は、幸せそうな顔に向ける注意は25点中の15点。不幸せそうな顔に向ける注意は25点中のマイナス12点だった。
脳は、1台のテープレコーダーとして人生を記憶しているわけではない。半ば独立したレコーダーだ。即ち、サブシステムが幾つもあり、それぞれが特定の領域の情報を記録し読み出しているのだ。
例えば、自転車の乗り方を想起したり、昔懐かしい歌を思い起こしたり、以前見た美しい風景を思い出すのは、全て別々のレコーダーを使う。
前述した認識記憶の研究で、若者と高齢者のポジティブな画像(幸せそうな顔)とネガティブな画像(不幸せそうな顔)を見せた。
若者は、その両方をほぼ同じ割合で記憶していたが、高齢者はそうではなかった。ポジティブな画像をネガティブな画像より強く記憶していた。
研究者は、エピソード記憶や短期記憶(ワーキングメモリと言う)、長期記憶についても、高齢者の記憶には同じような偏りがあることを確認した。
この現象を「ポジティビリティ効果」と呼ぶ。
高齢者の方が幸せだと言われるのは、一つには、人は年を取るに連れて、何に注意を向けて、何を記憶するかをより選択するようになるからである。
では、歳を重ねるごとに、なぜ人はこのように楽観的になれるのだろうか?
次回、これらについて詳しく書き記します。
ー続くー