現在、私たちが進めている口述自伝の制作において最も大切な作業のひとつが、いかに〈話しことば〉を〈書きことば〉に変換するか、いやもっと正確に言うと〈話しことば〉を〈聞き書きことば〉に換えるか、です。
〈聞き書きことば〉というのはあまり聞いたことはないですよね。これはジャーナリストで今は亡き和多田進さんの造語で、4年前に僕に託して頂いた《聞き書き技術試論》という論文の中に詳しく書かれています。
これは、「あたかも語り手が本当に喋っているかのように表現された書きことば」のことで、普通の〈書きことば〉ではなく、表現可能なあらゆる手段や方法を駆使して、句読点や記号、表記法なども新たに工夫しながら創り出していくものです。そのことばからその人のいつもの口調や言い回しが直ちにわかるように表現しなければならない。
そして、内容を決して変えることなく、誰もが「読みやすいなぁ」と思わせるような文章にまとめていくのです。もちろん〈聞き書きことば〉は〈書きことばの一種〉である以上、〈書きことばの基本や約束事〉を無視したり逸脱したりすることはできません。
この日本語の基本や約束事というのは様々あるのですが、その中で特に重要なのが、①語順、➁「ハ」と「ガ」、③句読点の3つですね。これに注意を傾けないと〈聞き書きことば〉は成熟しません。普段なかなか意識しないことかもしれませんが、少しこの3つのことに目を向けてほしいと思っています。このことについて、後日詳しくお話しますね。