私たちライフヒストリアンは、顧客の話を共感しながら聴いて、それを文字にしなければなりません。その語りに対し、単なる〈書きことば〉ではなく、独自の加工を施した〈聞き書きことば〉を創りだしていきます。

このとき、顧客だけでなく多くの読み手にとって、いかに正しくわかりやすい文章にしていくか、これが私たちにとっての生命線です。

そのため、日本語の文章表現技術を完全にマスターする必要があります。その教科書のひとつが、一橋大学大学院教授で言語学者の石黒圭先生が書いている《文章表現の技術Ⅰ~Ⅴ》です。

この本のキーワードは、〈無意識化された日本語の意識化〉です。

石黒さんは、留学生センターというところで外国人留学生を相手に日本語を教えている先生で、「留学生たちにとって日本語は外国語なので、感覚では理解できず、すべて論理で理解しようとする。こちらが論理的にきちんと説明すれば留学生たちはそれを確実に吸収する。そんな活動をしていると、この方法は留学生だけでなく日本人にも有効ではないかと感じるようになった。」と言います。

「例えば、『読点をどこに打つか』、『どれを漢字に直すか』など、これまで感覚的に無意識に処理してきたことを改めて見直すと、知らず知らずのうちに身についてしまった良くない習慣、つまり、読者にとって読みづらい文章を書いてしまうという傾向を自らの目で確認できることになる。

母国語による表現という無意識化・自動化されたプロセスを意識化・対象化することは、一流のスポーツ選手が自らのフォームをビデオでチェックするのと同じように重要だ」と主張しています。

そして、もうひとつのキーワードが、〈統計的に考える日本語表現法〉です。

石黒さんは、「これまでの文章指南書は、客観的な事実に基づかず、筆者の内省だけで書くといのが主流だった。その結果、『文章は短い方がいい』とか『段落文には必ず中心文が含まれる』などの俗説をあまり吟味されることなく受け継がれてきた。

しかし現実の文章はそんなに単純なものではない。この本の中では随所に数字を掲げ、統計を取っている。そうすると見えてくるものがあり、言語事実に基づいてこれらをしっかり説明していく。」と。

日本語の文書表現のセンスは、常日頃から磨いていかないとね。

〔この画像は、僕の中学校時代の同級生武笠弘子さんが、長野県の北八ヶ岳で撮影したものです〕

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