〈ライフヒストリー良知〉の事業を行うライフヒストリアンにとって、もっとも重要な仕事のひとつが〈文字起こし〉です。

顧客である語り手の言葉をそのまま起こしてみると、全然意味がわからないケースが多々あります。概して、自分が語っているつもりの話と、人が聞いている音というのかなり違います。語り手が自分の中だけに閉じこもって話をすると他人には全然違う形で伝わっていることに気が付かないものです。

語り手から、「話した通りにテープを起こしをしてください」と言われることが多いけれど、語り手が話そうとした内容と、録音し聞こえた内容がずいぶん異なります。語り手は自らのライフヒストリーの時代背景や文脈を、ライフヒストリアンが知っていることを前提にして話をすることがほとんど。それが言葉にはなっていない場合、聞き手が書き起こすことができないのです。

感情、笑いとか怒りなどをどう表現するか間とか沈黙をどう文字化するのか、など難しいことが多いけれど、このあたりがライフヒストリアンの腕の見せ所なんですよ。

また、表情や身振りや手振りなどの非言語コミュニケーションをどう伝えるのか、文字にすると消えてしまいますからね。あれ、これなどの指示語が多い語り手もけっこうたくさんいて、これも情景描写していく必要があります。

〈話し言葉〉を〈書き言葉〉にするには、文章の構造を変えなければなりません余計なものを削ったり語順を入れ換えたり、また「ね」「よ」「わ」などの終助詞をどのように入れていくか、いろいろ迷うこともあるんですよ。