記憶は、〈短期記憶〉と〈長期記憶〉に区分されます。

〈短期記憶〉には、〈感覚記憶〉と〈作業記憶(ワーキングメモリー)〉があり、〈長期記憶〉には、〈エピソード記憶〉と〈意味記憶〉、〈プライミング〉という記憶に分かれる。

この〈エピソード記憶〉のなかに、自分の人生に関する〈自伝的記憶〉という記憶があることがわかってきました。〈自伝的記憶〉は、20歳代をピークに10歳代後半から30歳代前半までの、いわゆる“青春時代”の出来事のことをよく思い出す、この記憶のことです。

一方で30歳代以降のことは、青春時代ほどには思い出さない。この現象を、専門的に一言で〔レミニセンス・バンプ〕、または単に〔バンプ〕と呼んでいますね。

〈ライフヒストリー良知〉では、この〔バンプ〕をたいへん重要視しています。なぜ、10歳代後半から30歳代前半の記憶だけが突出しているのか?それは、強い感情を伴う出来事は、記憶しやすく思い出しやすいという記憶の特徴からきているためなのです。

青春時代は、進学したり、就職したり、友達と出会い友情を育んだり、異性と恋愛したり、結婚したり、子供ができたりと、強い感情が伴う出来事がたくさんありますね。

これらがことごとく、心に、そして脳にしっかり刻み込まれ、脳の〈前頭葉〉だけでなく、感情の部位といわれる〈偏桃体〉やそれに関連する様々な脳の部分に深くしっかり刻まれていくからなんですよ。

また、青春時代は、社会的責任がなく、人生でいちばん自由かつ可能性に満ちた時代ですよね。しかし年を重ねていくにつれて、その自由さと可能性が衰えていく。人はノスタルジーといった感情に喚起されて、青春時代を好んで思い出そうとするのです。「思い出はみな美しい」よく聞く言葉です。

人が過去を、特に青春時代を思い出すとき、良い記憶しか思い出さないと言われています。それは、人は年を重ねれば重ねるほど〈ポジティブなこと〉に目が向きやすいという特性があって、ネガティブな記憶はポジティブな記憶よりも詳細に記憶されるけれど、これとは逆に、ネガティブな記憶はポジティブな記憶よりも早く薄れていくからなのです。

顧客の人生を通じてマイナスの記憶に満ちているとき、〔レミニセンス・バンプ〕の楽しく心豊かな記憶を思い出してもらう。これも私たちライフヒストリアンの大切な役割だと思っているのです。