文章を書くための参考書には、よく次のようなことが書かれていますね。
◆書く前によく考えよ
このふたつは、文章心得の根本原則といわれるものです。
明治時代に「言文一致運動」というものがありましたが、その時から「言文一致体」への深い尊敬心があって、上記の「話すように書け」という文章心得になったのでしょう。
このうち「書く前によく考えよ」はその通りですね。まったく異論はありませんが、「話すように書け」というのは必ずしも当たっていない。
〔話しことば〕というのは、概ね「会話」と「講話」に分かれると思いますが、これをご飯に喩えると、「おかゆ」と「赤飯」ほどの違いがありますよ。「おかゆ」が「赤飯」でないように、〔言〕と〔文〕は違います。
実際に、わたしは顧客の話をレコーダーに録音し、持ち帰って文字起こしをするのですが、人が話すことばというのは、一言で言えば〔文〕の体裁を整えているものはほとんどない。それが当たり前なのです。
つまり、「よく考えたことば」を発するなら、おそらく、3分の1ほどの語りや、おしゃべりですむということになるでしょう。
だけど、わたしのこの仕事だけでなく、ふだんの会話で無駄をなくすといういうのはとてつもない緊張を強いられますね。つまり、わたしたちは、おそらく3分の2以上もの無駄を交えて会話しているのです。
また、〔話しことば〕を文章にするとき、その長さがたいへん短くなります。とにかく短い〔文節〕で成り立っていますから。
〔文節〕というのは、例えば「話すように書け」なら、「話す」「ように」「書け」がそれぞれ1文節となり、この場合、3文節ですね。
一般に新聞記事などは、文の長さが平均17文節なのに対して、会話体だとだいたい4文節だと言われています。
「買えないよ、そんなもの、お金がないからね」。
これなんか、先に述語を示して、文章の骨組みを決め、そこから修飾語などを並べていく。これを〔書きことば〕にするときには、この逆の手順を踏む必要があります。
さらに〔話しことば〕には、「ね」とか「よ」、また「さ」などの間投助詞が、文節の切れ目ごとに必ず付きますよね。「エー」「アー」「その~」「あの~」という意味のない音声も加わってきます。
〔話しことば〕は、主語と述語、修飾と被修飾の関係がわからなくなってきます。途中から論旨を変えてみたり、話があっち飛んだり、こっち飛んだり跳ねていきます。
〔話しことば〕を〔書きことば〕にする場合は、これらの余計なものを除いて、照応関係を正して、論旨に一貫性を持たさなければならない。これはかなりの労力が必要になりますね。ほんとたいへん。
また、〔話しことば〕では、言語表現の以外の伝達道具、例えば声の調子や身振りなどがものいう場合が少なくない。
声音や口調がひじょうに重要な意味を担うのです。〔書きことば〕だと、普通、その声音や口調を描写しませんから。
このように〔話しことば〕と〔書きことば〕との相違点がひじょうに多いのですが、私たちはこれらのことをすべて踏まえて、〔話しことば〕と〔書きことば〕に上手にマッチングさせる〔聞き書きことば〕というものを長年にわたり研究開発し、現在事業を展開しています。
〔話しことば〕と〔書きことば〕、そして、この〔聞き書きことば〕について、これからも何回かに分けてより詳しくお話しますね。
ー続くー