記憶が人間にとってもっとも重要であるというのは、論を俟ちません。これまで数多くの高齢者が患う認知症に対応してきた体験から、特に強く感じています。

〈学ぶことと記憶は人間の経験を支える基礎である〉、この言葉に多くの脳科学者や心理学者が同意していますね。

「私たちの経験が自分の脳を修正するからこそ、私たちは世界について新しい知識を獲得できる。そしていったん学習すると、新しい知識が記憶の中に長期間にわたり保つことができるのは、修正された状況が私たちの脳の中に保持されるためである。

その後、新しいやり方で振る舞い、考えながら、記憶された知識について行動できるようになる。記憶とは、学んだことが時間を超えて持続する過程である。こうした意味で、学習と記憶はしっかり結びついているのである。」

これは、「記憶のしくみ」の実験論文でノーベル生理学・医学賞を受賞したコロンビア大学のエリック・カンデル博士の言葉です。

要するに、自分が自分であるというのは、その人が学び記憶することが何であるかによって決まるということを言い表しています。

また、記憶は学んだことを他者に伝える能力を持っていて、これは他の生物にはないたいへんユニークな能力ですね。

カルデル博士は、

「人間の成し遂げてきたことは、絶え間なく拡張しているように見えるが、人間の脳の大きさは、ホモサピエンスが数十万年前、初めて化石記録に出現して以来、特別大きくなったようにはみえない。

この何千年もの間、文化の変化と進歩を決定してきたものが、脳の大きさの増加ではなく、構造の変化でもない。むしろ、私たちが話したり書いたりすることで、学習したことを保存し、それを他者に伝えるという、人間の脳に内在する能力のなせる業なのである。」と。

そして、「記憶を失うことは、自己を失い、個人史を失い、他者との長きにわたる交渉を失うことになる。」と喝破しています。

私たちは、歳と共に衰えていくこの大切な記憶に対して、過去の記憶を呼び起こすことによって予防し、記憶の衰えを少しでも遅らせていくことが事業の使命であると考えています。

https://www.life-history.jp/