人の記憶は、いったいどの位まで幼児期にさかのぼれるのでしょうか。ある知人は、1歳のときの記憶があざやかに残っていると言っていましたが、ほんとうかな。

また、昔文豪が書いた本の中に「産湯を使ったときの記憶がある」という文章を読んだことがありますが、これも真偽はわかりません。

人は、見たもの、聞いたこと、感じたことなどのすべての情報を記憶することはできませんが、必要な情報を脳の〔前頭前野〕で選び、脳内に取り込んでいますね。これを〔記銘〕といいます。

記銘された情報は〔海馬〕に送られて、〔短期記憶〕として一次的に保存されますね。短期記憶は、短時間のうちに大部分が失われるが、そのうち一部は〔長期記憶〕となって脳内で〔保持〕されます。

保持された情報は、そのまま維持されたり書き替えられたりすることがあります。〔想起〕は脳に蓄えられた情報から必要なものを探し出す作業で、想起のときにも前頭前野が働いていますね。

年を取るにつれて、前頭前野や海馬が委縮していき、複雑で覚えにくい情報を記銘しにくくなるのです。そのため、高齢者は記銘や想起に支障をきたしやすい。

また、想起の機能も衰えるため、顔は覚えているが名前が思い出せない、という状況が起こってしまいます。

保持については加齢の影響が小さいと考えられていて、すでに保持されている記憶が消滅することは、ほとんどないですよ。

記憶のプロセス「記銘、保持、想起」は、コンピューターの情報処理システムになぞらえて、「符号化、貯蔵、検索」と呼ばれることもあります。

高齢者にアンケートを取って、「今不安に思っているのは何か?」という設問の上位の答えがいつも、「記憶が衰えること」ですね。

少しでも、お客様の記憶の衰えを防止するために、口述自伝の制作事業を通じて、脳科学と高齢者心理について、ますます深く究めていきますよ。

ー続くー