現代人にとってもっとも大切な能力のひとつが「記憶」ですね。これに異論を唱える人はまずいないと思います。自分というものは「記憶」で成り立っています。「記憶」があるからこそ、自分がこれまでどんな人生をおくってきたかを教えてくれ、「記憶」こそが過去と現在、そして未来を統合してくれているのです。

これまで、口述自伝制作〈ライフヒストリー良知〉の事業を推進する上で「記憶」に対するさまざまな知見を深めてきました。

「記憶」には様々な用語があります。外の情報や自分の経験を取り込んで覚えることを〈記銘〉と言い、〈記銘〉された内容を脳の中に蓄えたり、覚えておくことを〈保持〉または〈貯蔵〉と呼び、この〈保持〉〈貯蔵〉された内容を引き出すことを〈想起〉と表現しています。

また、この〈想起〉には、何を覚えていたかを言葉などで表現する〈再生〉と、覚えていることを確認する〈再認〉の2種類があります。

そして、記憶を忘れ去ってしまうこと、これが〈忘却〉ですね。

心理学の領域では、記憶はその保持時間の長さに基づいて〈感覚記憶〉、〈短期記憶〉、〈長期記憶〉に区分されています。

〈感覚記憶〉とは最も保持する期間が短い「記憶」で、外から入力された情報はまずは〈感覚記憶〉として、そのうち注意を向けられた情報だけが〈短期記憶〉として保持されます。

この〈短期記憶〉とは、保持期間が数十秒程度の「記憶」のことを指し、これに含まれる情報の多くは忘却されその一部が〈長期記憶〉になります。この保持情報が長期に安定化する過程は〈記憶の固定化〉と呼んでいます。

この〈長期記憶〉は保持時間が長く、数分から一生にわたって保持されますが、〈短期記憶〉とは異なり容量の大きさに制限はないことが特徴ですね。

さらに〈長期記憶〉には、〈陳述記憶(エピソード記憶と意味記憶)〉と〈非陳述記憶(手続き記憶やプライミングなど)〉に分類されます。

〈陳述記憶〉はイメージや言語として想起し、その内容を陳述できる「記憶」のことで、一方〈非陳述記憶〉とは意識上、言語などを介してその内容を陳述できない「記憶」を言います。

そして〈陳述記憶〉には、〈エピソード記憶〉と〈意味記憶〉があります。

〈エピソード記憶〉とは、個人が経験した出来事に関する「記憶」を指し、例えば、昨日の夕食をどこで誰と何を食べたか、というような「記憶」のこと。

また、〈意味記憶〉は言葉や概念に関する「記憶」で、例えば「1年は12ヶ月である」、「ミカンはこんな大きさ・色・形・味をしており、果物の一種」というような知識などに関する「記憶」を言い、これは通常同じような経験の繰り返しにより形作られます。

さらに〈非陳述記憶〉には〈手続き記憶〉、〈プライミング〉、〈古典的条件付け〉などがあります。

〈手続き記憶〉とは、例えば自転車に乗る方法やパズルの解き方のように、同じ経験を反復することにより形成され、一般的に記憶が一旦作られると自動的に機能し、長期間保たれるというのが特徴ですね。

〈プライミング〉とは、以前の経験により、後に経験する対象を定めることを促す現象で、例えばあらかじめ果物の話をしておくと、赤という言葉からいちごやりんごが連想しやすくなり、また、車の話をしておけば、同じ赤でも信号やスポーツカーなどが連想されやすいことを指します。

〈古典的条件付け〉とは、梅干しを見ると唾液が出るなどのように、経験の繰り返しや訓練により本来は結びついていなかった刺激に対して、新しい反応や行動が形成される現象のことです。

口述で顧客個人の〈生活史〉や〈自伝〉を制作することを、顧客の記憶の低下を防止するバリュー(事業価値)のひとつに挙げています、脳に〈記銘〉し〈保持〉している人生の経験や出来事をスムーズに〈想起〉し、〈再生〉〈再認〉することができ、そして大切なことを〈忘却〉させないという効果がありますね。

これが私たちのミッション(使命)なのです。