口述で自伝を制作する際、〈きくスキル〉を持つことがもっとも大切だと思っています。

この〈きく〉には3種類あります。すなわち「聞く」「聴く」「訊く」。簡単に言うと、「聞く」は黙っていても耳に入ってくること、「聴く」は耳を傾けること、「訊く」は尋ねること。この事業を推進する上では、特に「聴く」と「訊く」に注意を払っています。

僕が目指しているのは、〈語り手〉の話す内容を〈聴き手〉が膨らませて、その膨らませたものが、また次の話題に繋がっていくようにすること。

〈語り手〉の語る話を、〈聴き手〉の私たちがより深く広くしていく。このとき〈語り手〉と〈聴き手〉両者のハーモニーが大事で、それが上手くできるととてもいい作品ができあがりますね。

この時、「聴き手」にはそれ相応の知識が必要になります。その知識を質問事項に変えていく。それによって、自伝の「読み手」は、「語り手」のライフヒストリーや生き様をより多く、より深く知ることになり、自伝の輝きが放たれていく。

そのために、ライフヒストリアンは、昭和・平成時代の歴史や出来事を研鑽したり、「語り手」の情報を詳しく得たりします。

口述自伝を制作する際、そこには〈語り手〉と〈聴き手〉の二者だけがいるのではなく、その背後には文字化されたものを待っているたくさんの人たちがいる、このことを決して忘れてはならないと常に肝に命じているんですよ。