人生の種類の視点

直木賞作家で、〈11PM〉という人気番組の司会でも名を馳せた藤本義一さんという方がいました。2012年に79歳で亡くなられたけれど、僕はこの方にたいへん好感を持っていました。〈11PM〉は若かりし頃よく見ましたね、特にエロス的なものを。ほんと懐かしい。  

藤本さんは、“人間が自分の人生について考えるときに、おおざっぱにいって〈4種類の視点〉がある”と指摘しています。

“この〈4種類の視点〉というのは、人生を、『〈善悪〉でみるか』、或いは『〈勝ち負け〉で考えるか』、それとも『〈好き嫌い〉で判断するか』、いっそのこと『〈損得〉で決めてしまうか』。この4種のパターンの人生観がどの人の中にもある。”と言うのです。

世に出ている数々の〈自伝〉を読むと、確かにこの4種のどれかが基準になって展開されていますね。それは、あたかも4種の木の幹から、自分を語る枝や葉っぱが伸びているような感じでしょうか。

ところが、最初は首尾一貫していたのが、途中から乱れてきます。〈勝負〉がいつの間にか〈損得〉の意識になってしまっていたり、〈善悪〉が〈好き嫌い〉の判断にすり替わったりしています。

これでは、読み人が混乱するだけでなく、書き手の姿勢がとても曖昧になっていくように思うのです。〈自伝〉の中の自分の像がぼけてしまって、いったいこの人の考えはどこにあるのかわからなくなってしまう。

藤本さんは、“〈自伝〉は、~自分はこういう人生を送った~と書きたい衝動から始まるもの。だが、この衝動を突っ走ってしまうとたいへんなことになる。やはり、そこには、自分に対しての抑制がなくてはならない。抑制とは自己批判であり、自己反省だといえる。” 

つまり、藤本さんは、“〈自伝〉を書くとき、自分に酔うことが最も危険なのだ。”と言い放っていたのです。

この視点がとっても大切ですよ。〈口述自伝〉における〈ライフヒストリアンの役割〉は、まさしくここにあると言っても言い過ぎではありません。自己陶酔の状態に進みだしたら、それを元の正しい道に戻し、そして自己反省の大切さを気づかせていくのです。

〈ライフヒストリアン〉は心理学の知識を持ち、カウンセラーとしての訓練を受け、またいろいろな経験を積んだ多くの中・高齢者と面談しているので、〈口述自伝〉を作成しようとする方々に適切なインタビューや傾聴によるサポートができるのです。

藤本さんは、“〈自伝〉は、記憶と根気と余裕と自己開発の記録であり、誰でも一冊はできるものだ。”という言葉を残してこの世を去りました。

https://life-history.jp/