欧米では、功なり名を遂げた人だけでなく、ごく普通の人たちが老年期になると自伝を書きますね。

老年者同士でグループを作って、お互い助け合いながら自伝制作を進めていくのです。西洋では、特にキリスト教における神への告白という宗教的な側面が大きい。

一方で日本はというと、昭和の時代までは、事業など各分野で成功した人や有名人以外、名もなき人が自伝を書いて後世や子孫に残す人はそれほど多くありませんでした。昔は『西洋に自伝あり、東洋に自伝なし』と言われたものです。

しかし、平成の時代になり、高齢化社会の到来と共に、名前を知られていない普通の人たちが自伝や自分史を書き綴り、自費出版するケースが増えています。ひとつのブームと言ってもいいでしょう。

では、人は、なぜ自伝を書くのでしょう?アンナ・R・バーというアメリカの自伝研究者がいるのですが、彼女は自伝を書く動機や理由を次の4種類に分類しています。
(1)自己研究
(2)子孫・後裔のため
(3)宗教的な証言として
(4)楽しみのため、過去を思い出すために、自伝を書くのだと。

また、作家の保阪正康は、様々な分野で活躍した著名人の自伝を評価をする《自伝の人間学》という書籍のなかで、次のように書いていますね。
(1)自分の人生を書き留めておきたい(内的衝動)
(2)自分がいかにして成功者になったか(自己誇示)
(3)自分の人生を児孫に伝えたい(教訓)
(4)自分の歴史的役割を残しておきたい(記録性)
(5)自分の特異な体験を広く後世に伝えたい(特異性)からだと。

さらに、日本経済新聞の裏面に《私の履歴書》というたいへん人気の高いジャンルがあるのですが、これを担当していたかつての論説委員に石田修大という人がいて、その著書《自伝の書き方》のなかで、アメリカ建国の功労者ベンジャミン・フランクリンの言葉として次のように伝えています。

フランクリンが貧しい環境から身を起こし、富裕で幸運に恵まれるようになるまでの人生について、(1)「私が取り用いた有益な手段」を子孫に伝えるため
(2)老人によくある身の上話や手柄話ばかりしたがる癖を満足させるため
(3)自分の自惚れをも満足させるために、自伝にして著したと。
いかにもフランクリンらしい動機ですね。

私自身は、口述自伝制作〈ライフヒストリー良知〉事業を推進していくための目的、或いは使命について、次のように考えています。
(1)顧客がこれまで家族のため、会社のため、社会のため、そして自分自身のために一生懸命頑張って来た姿に対して、自らを褒めたたえ、自尊心を高める。
(2)インタビューして、顧客の生きてきた歴史や物語について、共感しながら聴くことで、顧客の脳に刻まれている昔の記憶を蘇らせる。この時、前頭葉をはじめとする脳の各部位の活力を高め、記憶力や注意力などの強化をはかりながら、認知の衰えに対する予防をしていく。
(3)ライフヒストリアンが良き聴き手となり、顧客が経験したさまざまな出来事を思い出深く語ることで、心が豊かになり、自信が得られ、顧客に未来への希望を持って頂く。
(4)顧客の家族や友人に自伝を見て頂くことで、より一層の円満な家族関係、円滑な友人関係を構築する。
(5)子孫や後裔たちに自伝を残すことによって、両者に喜びが得られ、彼らの先祖に対する尊敬心を抱かせる。
(6)何といっても、顧客自身の〈人生における意味〉や〈歴史的な役割〉が何であるかを書き留めておく。

「西洋に自伝あり、日本に自伝文化あり」この言葉が広く知れ渡るように!