普通の人々が、自らのライフヒストリーを記述したものを〈自分史〉と呼んだのは、歴史学者で作家の色川大吉氏ですね。

色川さんは、自らの戦争体験を批判的に捉え、自分の生きてきたなかに国家や社会、世界の動きを見る必要に気付いて、その観点から書かれたもが〈自分史〉であると論じました。

〈自分史〉は、晩年になって書く著名人の〈自伝〉とは異なり、若くても自分の歩んできた来た道を振り返り、しかも、大きな歴史のなかに埋没しかかっていた個人としての自分をはっきりと素直に前面に押し出して、自分というものを軸に、その時代を生きた歴史を書くことにあるとしています。

このとき〈自分史〉は、同じ思いの仲間たちそれぞれが身近な生活を振り返りながら、書き留め、それを互いに読み合わせをします。そして感想を述べたり、仲間の〈自分史〉に触発されて自らの人生を新たに見直したりしながら、自らの〈自分史〉を完成させていくのです。

これは一種の「セルフヘルプ活動」ですね。

さらに、〈自分史〉は、過去を振り返るだけでなく、過去から未来を見据える視点を持ち、決して人生の晩年になってから書くものではなく、若くして書き著していくことも大切だと色川さんは言います。なぜなら、書き手がこれからどのような人生を歩んでいくかを問い直すために、自分の過去を振り返ることが必要なのだと。

現在、私たちが展開する聞き書きによる〈自伝〉制作事業は、顧客に対してインタビューし、質問と応答を繰り返すという相互行為によって、〈自伝〉を完成させていくところに〈自分史〉とは大きな違いがあります。

けれども、個々人の人生の記録や物語を後世に遺すという意味では、〈自分史〉と〈口述自伝〉の意義や目的は何ら変わらないですね。

26Shirakawa Masahiro、小林弘運、他24人コメント3件いいね!コメントするシェア