中・高齢者の方に対する、心理的ケアやカウンセリングは果たして必要でしょうか?
心理学の大家ジークムント・フロイトは、中高齢者への精神分析は禁忌としてきたけれど、その弟子カール・ユングは〈老賢者の元型〉としてその必要性があるとしました。
先日、高齢者施設のグループホームに80歳を少し超える男性が入所してきました。アルツハイマー型認知症と診断され、見当識や言語理解機能はしっかりしているものの、夜になると居室で放尿をし、どれだけ言い聞かせても治らないと言うことで、僕が呼ばれました。
いろいろ話を聴かせてもらうと、僕の高校の先輩でした(後で卒業生名簿を確認したところ間違いなかった)。高校時代に過ごした懐かしい思い出をいろいろ話し合ったり、外出して母校に遊びに行ったり、大学卒業に勤めていた宿泊施設を見学したり、その人の長期記憶であるエピソード記憶や自伝的記憶に働きかけて、認知症の進行を抑制したり、放尿する行為を止めようとしました。
先輩と僕とのラポール(信頼関係)はある程度できたと思います。しかし、行動に変化はありません。相変わらず夜になるとトイレに行かず、ベッドから壁に向かって放尿するのです。
経験上、認知症の人の行動にはそれぞれに意味がある。その人の脳機能だけでなく、病歴、生活歴、心理精神状態を把握することで、その意味を読み取ることが大切ですね。
当然のことながら、この先輩の行動にも意味があります。その意味をもっと深く把握し、行動様式を自ら変えていくために心理介入していく必要があると判断して、現在、推進しています。
認知症の進行を遅らせたり、中・高齢者の老化を予防するためには心理的ケアが必要と考えています。その場合、ライフヒストリーに触れながら〈回想法〉や〈ライフレビュー〉を駆使していくことが、もっとも成果を上げられる方法だろうと確信しているのです。