遠い昔、中野卓さんという民俗学の研究者が、《口述の生活史ー或る女の愛と呪いの日本近代》という本を著しました。

これが日本の〔ライフストーリー〕研究の始まりで、それから〔ライフヒストリー〕や、医療や介護関係での〔ライフレビュー〕という言葉が使われだしたのです。

〔ライフストーリー〕をそのまま日本語に訳すと〈人生の物語〉とか〈自己物語〉になるでしょう。

私の事業分野では、〔ライフヒストリー〕ですが、〔ライフヒストリー〕は〈人生の歴史〉や〈生涯の歴史〉、または〈自己の歴史〉となるのでしょうか。

英語をそのまま訳すと、意味が違ってくる場合がありますね。

〔アイデンティティ〕という言葉なんか、その最たるものてすよ。日本語なら〈自己同一性〉となるけれど、これは一般的ではないですよね。「いったい自分は何者なのか」を一言で表す日本語にどんな単語があるでしょうか?

適切な言葉がない。今は〔アイデンティティ〕は、〔アイデンティティ〕として、りっぱな外来語として通用しているので、これでいいですよね。

私たちが用いる〔ライフヒストリー〕も、人生の物語を現す〔ライフストーリー〕も、過去を回想する〔ライフレビュー〕も、そのまま外来語として使っていけばいい。

ところで、〔ライフストーリー〕を提唱しているのが、榎本博明さんという心理学の先生です。

《自己物語の心理学》をはじめ、この方が書いた書籍をいくつか読みましたが、現代に生きる者にとっては、たいへん含蓄のある的を得た話の数々が載せられていますよ。

私は、榎本さんのこの《自己物語の心理学》が伝えようとする理念や考え方を、〔ライフヒストリー良知〕の理念の基礎にしているのです。

「人が、自分自身と人生に与える意味を的確に理解するため、最大の助けになるのは記憶だ。

記憶というのは、どんな些細な事柄と思われるものでも、本人にとっては大きな価値がある。

自分にまつわるエピソードが想起され語られるとき、重要なのは、エピソードの事実性ではない。そのエピソードが記憶され、想起され、語られたそのものなのだ。」と。

全くそのとおりですね。