口述自伝の制作は、お客様との対話を積み重ねていくことによって作り上げるものです。お客様に質問をし、答えて頂いて、そこから新しい質問が生まれ、また答えを頂く、というようなサイクルで対話が広がっていきます。

この時、大切なのは、〈ライフヒストリアンの質問力〉です。

〈質問力〉とは、質問する者の〈技術力〉だけでなく、〈人格〉そのものが問われます。質問のなかに自分のすべてが投影されるため、〈ライフヒストリアン〉の性格や気質が質問という形で表れ、お客様に投げられるのです。

お客様の〈自伝的記憶〉を蘇らせる質問によって、その人生を映し出し答えをつなげていくことでお客様の生きざまが浮き彫りになります。

政治家や経済人の口述記録〈オーラルヒストリー〉で名を馳せた東京大学の御厨貴教授は、「よき質問者は、相手の答えから物語を紡(つむ)いでいくストーリーテラー(筋の面白さで読者をひきつける作家、物語の進行役のこと)でもある」と言います。

人と人との対話をスムーズに進めるうえで、呼吸やリズムを合わせていくのはとても大切なことですね。過去のことががなかなか出て来ない人、楽しい思い出がどんどん湧き出て喜びに満ち溢れてくる人、昔のことに後悔し怒り悲しんでいる人、人には喜怒哀楽があるからこそ、その感情に合わせた目線で対話するよう心がけていくことが大切ですね。

話を終えた後に、「お話をして、何か心がすっきりし気分が落ち着きました」という人は意外に多い。つまり、お客様の話を真摯に聞くというのは、お客様の存在そのものを受け入れるということなのでしょう。

〈傾聴〉、〈受容〉、〈共感〉というのはカウンセリングで最も大切な3つの要素ですが、口述自伝を制作する〈ライフヒストリアン〉は、お客様に質問し、話を聴き、受け入れ、その人に思いを馳せることで、まさに〈心理カウンセラー〉の役割を担うすばらしい人材になっていくのですね。