前回は、語彙の量を増やすことについて書きましたが、今回は、語彙の質について考えてみたいと思います。

語彙の質を高めるということは、、

間違った使い方を避けること。パソコンを使っての漢字変換の時がもっとも多いかもしれませんね。〈天気がいい〉を〈転機がいい〉、〈伝記を読む〉を〈電気を読む〉とか。〈満員〉(まんいん)を(まいいん)とか、〈不具合〉(ふぐあい)を(ふぐわい)といったことが結構あります。うろおぼえによって語彙を間違えることに注意しなければなりません。

重複と不足を解消すること。〈まず最初〉とか、〈買ったばかりの新しい〉などが重複になります。不足とは、例えば〈扇風機を回す〉とか〈電話を取る〉といった言葉で、正しくは、〈扇風機の羽を回す〉であり、〈電話の受話器を取る〉ですね。

略語についても注意が必要ですね。例えば、ソフトという言葉。ソフトクリームもソフトウエアもソフトレンズもソフトボールも皆、〈ソフト〉で通じます。略語でも意味が通じればそれで言いのだけれど、そうではないケースも多々ありますからね。

連語の相性に注意すること。食べるという言葉を考えてみましょう。
(ア)お昼ご飯を駅中で食べる。
(イ)焼肉をがつがつ食らう。
(ウ)上品な和食をいただく。
(エ)馬たちが草を食む。
(オ)栄養のバランスよく野菜を摂る。
(カ)卵かけご飯をあわててかきこむ。
(キ)体調のため少量のお粥を口にする。
といったように同じ食べることでも、日本語はいろいろな言い回しがあります。

語感のズレを調整すること。〈子供の入学式に参列する〉は〈子供の入学式に出席する〉がいいでしょう。また、〈希望まみれの若者たち〉という言葉も違和感があり、〈希望にみちた若者たち〉でしょうね。こんな語感の不自然さや違和感は是正すべきですね。

語を適切に置き換えること。例えば、〈処刑〉という言葉を〈粛清〉としたり、〈飛び込み自殺〉を〈人身事故〉と言ったり、聞いているものに影響を与えるものはぼかして使うことがあります。

逆に、ぼかした言葉を明確化することもあります。例えば、昔は〈成人病〉と言っていたのを、今は〈生活習慣病〉と言い、生活習慣に注意を向けることを明確にした言葉に言い直しています。


語の社会性を考慮すること。言葉には、女性言葉男性言葉があります。例えば〈バック〉や〈カット〉は女性言葉で、〈かばん〉や〈散髪〉は男性言葉でしょう。

また有標とか無標といったもの。通常「赤い消防車」とか「赤いポスト」とは言いませんね。消防車やポストは赤と決まっているからです。これが無標です。

有標とは、例えば女性が有標になる場合〈女医〉や〈女子学生〉、〈女流作家〉や〈婦人警官〉があっても、〈男医〉や〈男子学生〉、〈男流作家〉や〈紳士警官〉とは言わないですよね。このことです。

多義語のあいまいさを管理すること。日本語はあいまいな言葉だとよく言われます。例えば、〈すみません〉は、感謝と謝罪の両方を表しますね。〈けっこうです〉も、イエスでもありノーでもある。書き言葉はできるだけ、あいまいさを排除するように働きかけます。

異なる立場を想定すること。書き手の立場と読み手の立場が異なると、語の意味は“ずれ”をきたします。語の選択には、書き手のものの見方が無意識のうちに反映されます。書き手が〈運命〉と考えていることが、読み手には〈偶然〉となることはことのほか多いのです。

語の感性を研ぎ澄ませること。代表的な感覚表現として2つあります。ひとつは比喩で、もうひとつが擬音語・擬態語(オノマトべ)です。これってわかりますよね。

相手の気持ちに配慮すること。つまり敬語の使い方です。敬語は通常、文に登場する人物に使う素材敬語と聞き手に使う対者敬語のふたつがあります。対者敬語は、いわゆるデスマスのことです。素材敬語尊敬語謙譲語に分かれます。例えば、〈食べる〉で〈召し上がる〉が尊敬語で、〈いただく〉が謙譲語ですね。

最後⑪が、心に届く言葉を選択することです。これがもっとも難しい。

結局は、人からの受け売りではなく、悩み迷い苦しみながら自分の言葉で表現する言葉が、いちばん力のあるものになっていくのだと思います。ライフヒストリアンとしてそれを肝に銘じて、この事業を進めていきたいものです。

≪この写真は、埼玉県に在住する僕の友人の武笠弘子さんが撮影したものです。≫