ヒストリアンという言葉を日本語に訳すと歴史家ということになります。
では、そもそも歴史とは何でしょうか？
一般的には、「歴史とは、過去に起こったこと」と言われますね。だけど、それだけでは正しい歴史の定義にはならない。「過去に起きたことがらに対する人々の記憶」、これこそが歴史だと思いますよ。
記憶されない歴史は何の意味をも持ちません。ただ難しいのは、過去に起きたことがらに対する客観的な記憶というのが果たして可能かどうか？ 利害関係が互い異なる人々が互いに争う社会的な現象に関する記憶は、利害が異なれば当然のことながら違う形で記憶され、また解釈されるしかないのです。
歴史において絶対的な客観というものは存在しないと言い切れると思いますよ。
歴史家とは、歴史と格闘する知識人であるとよく言われますね。歴史家が闘う歴史とは、ごく普通の人々や一般大衆の過去の出来事に関する集団的な記憶のことです。
この集団的な記憶は、自然発生的に生まれたものもあるけれど、特定の利害を持つ人たちによって作られたり、操作されることによって人々の中に注入されうることも大いにある。特に、最高レベルの集団的な記憶というべき国や民族の歴史の興亡においては、そうしたケースをしばしば目にします。
歴史家たる者は、これらの人々の集団的な記憶のなかに埋もれてはならない。歴史家は、人々の集団的な記憶が政治的に操作されることについて、史料に基づき、人々に知らせる専門的な職業です。この歴史家の見解や批判を通じて、はじめて人々は自分たちの過去の出来事に対して思いを馳せる機会を持つのです。
そして、よりよき未来を模索するための知恵を過去の歴史を振り返ることによって創り出していく、その役割が歴史家にあるのだと思います。そんな考え方の糸口というものを人々に投げかける能力の持ち主が歴史家と言えるのでしょうね。
人々のライフヒストリーを〈聞き書き〉し、後世に伝えることを生業とするライフヒストリアンもまったく同じことですね
僕は、人々とライフヒストリアンとの間に語り手と聴き手といった、しっかりとした分業関係が成立している社会、そんな文化を有する社会が望ましいと考えています。
写真は、滋賀県高島市安曇川の≪陽明園≫。