翌日なら覚えているのに、1ヵ月後とか半年後にはすっかり忘れている、こんなことは日常、よくありますよね。

この背後にはいったい何が起きているのでしょうか? 記憶は完全に失われているのでしょうか? またはどこかに潜んでいてヒントや刺激によって思い出されるのでしょうか?

「記憶はニューロン(神経細胞)間の接続の強みの変化によってコード化されている」と言われています。何かを経験したり、新しい事実を知ると、ニューロン同士の結合部分であるシナプスで複雑な化学変化が起こります。

しかし、この変化は時間の経過と共に起こらなくなります。記憶をコード化するニューロン結合が時間の経過とともに弱まっていくからです。その後も思い出したり考えたりすることがなければ、結合はさらに弱まって、記憶を呼び起こせなくなっていくのですね。

しかし、失われたと思っている記憶も、思い出させるヒントによって回復できます。強力なヒントがあれば、弱まったニューロン結合から経験の断片を掘り起こし、失われた記憶を取り戻すことができるからです。

ヒントの数を増やせば増やすほど、その出来事のカギが思い出しやすくなります。

物忘れとは、完全な忘却ではなく、不完全に記憶されている状態のことで、その不完全な記憶の周辺には、経験の断片が散らばっているのです。

ものごとをずっと覚えていられるか、すぐ忘れてしまうかは、その記憶が形作られた直後、つまりコード化される瞬間と大いに関係がありますね。だから、記憶力を向上させるためには、記憶のコード化をしっかりコントロールすべきなのです。

記憶をコード化する能力を向上させる技術として精緻化と呼ばれる方法があります。思い出したいことをすでに知っているものと関連付け、その内容について質問し合成していくものです。

私たちは、この方法を取り入れています。

語り手の記憶を向上させるためのヒントきっかけ、それに質問力、私たちはこれらをキーワードにして、たいへん重視しているのです。