過去を振り返るのは、後ろ向きだ、退嬰的だと言う人がいます。「歳を取っても前向きに生きよ。後ろを振り向くな。それが元気の秘訣だ」とか。
確かにそれもあるかもしれないけれど、老年者の場合、前を向いたら極端な話、“死”しかないですよね。
それよりは、「あの時は良かった。幸せだった、面白かった」など、いろんなことを回想してなぞっていったほうがいい。
人間誰しも、〈回想のひきだし〉をたくさん持っています。この〈回想のひきだし〉を折を見ては開けて出していかないとさび付いてしまう。だからできるだけたくさん開けたほうがいい。
過去を思い出すことは、高齢者施設の現場や医療の世界でも《心理回想法》や《ライフ・レビュー》という手法で取り入れられていますね。昔をあれこれ回想することで脳の働きが良くなり、思い出話はコミュニケーション能力に大きな刺激を与えてくれますから。
この時、蘇った思い出が楽しければ楽しいほど、心理的に効果が高い。「我が生き様、ライフヒストリー、まんざら捨てたものではないなぁ」と肯定的な気持ちになります。
回想というのは、例えば投資信託なんかと違って元本を割り込む事なんて絶対ありません。元手は自分の頭の中にあるので、無限に存在しているのです。これほど安心でしかも効果が期待できる財産は、そうそうないですよね。
まずは、頭の中で記憶を蘇らせる。その後、文字にして遺す。大切なのはこの繰り返しと思っているのです。