記憶には段階があります。

①記銘・獲得(覚える)
②貯蔵・固定(覚えておく)
③想起・再生(思い出す)
④再認(確かめる)
⑤忘却(忘れる)

この5つの段階です。僕は、これを僕なりの言葉で記憶のペンタゴンと名付けています。

僕が事業を展開する上で、最大テーマにしているのは、この中の③想起・再生と④再認の分野です。

これまで研究者や専門家から話を聞いても、専門書に書かれている内容をみても、記憶の①と②、⑤は比較的詳しく解明されています。しかし、③想起・再生や④再認についてはほとんどわからない。そう、脳に記憶されたものを思い出すためのメカニズムは、科学的にはまだはっきりと解明されていない。

何故かというと、想起・再生や再認という行為には、記憶以外の脳の高い次元での複雑な機能が潜んでいると言われているからなのです。

脳には、気が遠くなるような膨大な記憶が蓄えられています。にもかかわらず、私たちはその必要な部分を必要な量だけ自由に思い出すことができますね。想起とか再生、再認というのは、普段、なにげなく行っているのでそれほど難しくない思ってしまいがちですが、実はそうではなく、脳にとっては想像を絶するほどの煩雑な仕事らしいのです。

何故かと言えば、脳に貯蔵し固定されている記憶の数々を検索して、その中から目的としている記憶を探り出さなければならないからです。 

言い換えれば、「思い出せ」という指令を数多くの神経回路に送って、必要とする情報が貯蔵・固定してある神経回路を発見しなければならない。脳には無数の神経回路があるので、まったく関連のない神経回路を無秩序に検索していたら、いつ目的の場所に行きつのかわかりません。

これを克服するために、脳はお互い連絡のある神経回路に沿って記憶を検索するという方法を取っています。関連のあることがらを次々検索していき、ようやく目的にたどり着くようにできているのです。

ここで言う、〈お互い関連のあることがら〉とは、つまりきっかけのことなのです。人、場所、日記、音楽、映像、写真、味、香り・匂いなどがそのきっかけになりますね。

忘却とか忘れるということは、記憶が消えることではないのですね。記憶が想起・再生、再認できなくなったことを言うのです。貯蔵し固定されている記憶が検索できなくなった状態。記憶は放っておくとお互いに連合されたものがだんだん弱っていく。そうなると、最後には検索不可能になります。これが忘却の正体ですね。

過去に記銘獲得した記憶は、脳に固定され貯蔵されている。その記憶を日々想起再生再認する。そして必要でないと判断したものは忘却されていく。