自分というものは〔記憶〕で成り立っています。自分がこれまでどんな人生を送ってきたかを教えてくれるのも〔記憶〕ですね。

〔記憶〕があることで、その時代に経験したこと、考えたことを理解し、反応し、それらを組み合わせて一つにまとめることができます。

ところで、この〔記憶〕。翌日なら覚えているのに、1ヵ月後とか半年後にはすっかり忘れている、こんなことは日常、よくありますよね。

◆この背後にはいったい何が起きているのか? 

◆〔記憶〕は完全に失われているのか? 

◆または、どこに潜んでいるのか?

◆ヒントや刺激によって、どのように思い出されるのか?

「〔記憶〕はニューロン(脳の神経細胞)間の接続の強みの変化によってコード化されている」と言われ、

何かを経験したり、新しい事実を知ると、ニューロン同士の結合部分であるシナプスで複雑な化学変化が起こるのです。

しかし、この変化は時間の経過と共に起こらなくなります。〔記憶をコード化〕するニューロン結合が時間の経過とともに弱まっていく。

その後も、思い出したり考えたりすることがなければ、結合はさらに弱まって、〔記憶〕を呼び起こせなくなってしまいます。

しかし、失われたと思っている〔記憶〕も、思い出させるヒントによって回復でき、また強力なヒントがあれば、弱まったニューロン結合から経験の断片を掘り起こし、失われた〔記憶〕を取り戻すことができます。

ヒントの数を増やせば増やすほど、その出来事のカギが思い出しやすくなります。

物忘れとは、完全な忘却ではなく、不完全に〔記憶〕されている状態のことで、その周辺には、経験の断片が散らばっているのです。

ものごとをずっと覚えていられるか、すぐ忘れてしまうかは、その〔記憶〕が形作られた直後、つまりコード化される瞬間と大いに関係がありますよ。

だから、記憶力を向上させるためには、〔記憶のコード化〕をしっかりコントロールすることが大切。

記憶をコード化する能力を向上させる技術として〔精緻化〕と呼ばれる方法があって、思い出したいことをすでに知っているものと関連付け、その内容について質問し、つなぎ合わせていきます。

私たちライフヒストリアンは、この方法を取り入れています。

語り手の〔記憶〕を向上させるためのヒントやきっかけ、それに質問力、私たちはこれらをたいへん重視しているのですよ。