今年11月2日㈫、京都の山科で、現在展開している口述自伝の制作事業について、京都の大学で心理学の教鞭を取る心理カウンセラー、田中正晃先生からたいへん貴重なアドバイスを頂きました。

事業を進めていく上で、語り手である顧客からの話を聴く際に、私たちライフヒストリアンは、〔きく力〕を持たなければなりません。

この〔きく〕という言葉を漢字に当てはめてみると、〈聞く〉〈聴く〉〈訊く〉の3つに分けることができます。〈聞く〉とは耳にする、〈聴く〉は耳を傾ける、そして〈訊く〉は尋ねること。

〔きくプロフェッショナル〕である先生の話は、実に示唆に富みとても為になりましたよ。

そのなかで、〈訊く〉ことは、顧客の記憶を蘇らせことにほかならない。年齢を重ねていくと、長期記憶のひとつである〈エピソード記憶〉がとぎれとぎれになり、断片的なことしか思い出せない。

本来、物語として、心や脳の中に残っているはずなのに忘れ去っている。

それを〈訊く力〉によって、顧客が思い出すきっかけやヒントを与え、海底に沈んでいた〈記憶の島〉の数々をつなぎ合わせ地続きにし、〈記憶の大陸〉として物語を再現していく。

〈訊く〉というのは、いわば〈記憶の島〉を浮かび上がらせるために、海面の水位を少しずつ低下させていく行為であると言えますね。

では、〈訊く力〉、〈問いかける能力〉とは、いったいどのようなものなのか?

それは、顧客に語りに共感しながら、心の中を慮って、過去の記憶を引き出していくための的確な質問であり、顧客の生活や生きざまを把握し、その当時の時代背景や社会情勢を知識として持ちながら、知恵を持って問いかけをすることですね。

けれども、田中先生は、「もっとも必要とされるのはライフヒストリアンの〈人間的魅力〉だ」と仰っています。

これを磨いていかなければ、どんなに知識が豊富で優れた〈訊く力〉や〈聴く力〉、〈訊く力〉があっても、事業は決して成功しないと。

確かにその通りですね。