「聞き書き」というのは、〈語り手〉が〈聞き手〉に話をし、それを〈聞き手〉が〈書き手〉となり文章にするーということの一連の流れを示す言葉で、どちらかというと、民俗学とか社会学の用語として使われてきたものですね。

このとき、〈聞き手〉はただ単に聞くことだけではなく、熱心に耳を傾けるよき〈聴き手〉であり、わからないことを尋ねる質問者としての〈訊き手〉、この三つの役割を果たします。

私たちが事業として「聞き書き」を行う場合、〈語り手〉とは顧客のことを指します。かつてマネジメントの大家ピーター・ドラッカーは「ビジネスには二つの機能しかない。すなわち〈顧客の創造〉と〈イノベーション〉だ」と。どんなビジネスでもそうですが、この分野もまずは顧客を創り出していくことが最優先課題になります。

顧客とは? これまで、自伝や自分史を制作する場合、功なり名を遂げ冨を得た人たちが自らの手で、或いはゴーストライターの筆によって書き著すというのが一般的でした。

それを私たちは、顧客を「名もなき普通の人々」と定義付け、顧客のライフヒストリーを「聞き書き」によって聴き文章化します。

一定の制御をしながら、極めて低価格で、インターネットを活用しいつでもどこでも誰でもそれを見ることができ、また「聞き書き」した内容を後に自由に変更できるものにしたのです。、

このとき、ゴーストライターという名称を取っ払って、〈聞き手〉であり〈書き手〉を〈ライフヒストリアン〉と呼ぶようにしました。〈語り手〉と〈聞き手〉・〈書き手〉が同等の立場になり、〈ライフヒストリアン〉の名前を表に出すようにしています。

ところで、顧客である〈語り手〉の話を、〈聞き手〉である〈ライフヒストリアン〉が聴く際、〈聞き手〉にはどんな資質や能力が求められるのでしょうか。

原則的に言うと、あらゆる顧客の要望に応えるには、聴く力や質問力、それに多数の人々に読んでもらうための文章力などが必要になり、その際、〈語り手〉が生きてきた時代に関する幅広い知識などが求められます。

顧客が語る話の内容は、原則的に顧客が体験した事実に限られます。〈語り手〉が体験したこともない夢物語を「聞き書き」することはありません。

しかし、記憶によって言葉が語られる以上、顧客の記憶が曖昧であったり忘却の彼方に飛び去ったりして、言葉は驚くほどの欠陥を抱えているのです。

「聞き書き」にはそんな限界から脱却することができない。それらを常に意識し自分に言い聞かせておくことが大切ですね。