前回に引き続き、ウクライナ人の〈自伝〉について書きます。

ロシア帝国は、その文化的記憶から他の東スラブの言語を消し去ろうとしました。ウクライナが一度も存在したことがないかのような姿勢を取ったのですね。 

ロシア帝国にとってみれば、ウクライナ人は昔からロシア人であり、独自の歴史を持ったことなんてありえない。 従って、ウクライナ国家主義は、ロシアのそのような建国神話にとって大きな脅威であり、「全ロシア国民」をつくり出すロシアの指導者たちにとっての脅威なのです。 

かつてのソ連時代、スターリンはウクライナつぶしに躍起になった。1932年から翌年にかけて起きたスターリンの政策が引き起こした人為的な大飢饉では、何百万人ものウクライナ人が命を落としましたね。 学校でウクライナ語を教えることが禁止され、学校そのものが閉鎖されるなど、ウクライナ文化への弾圧が行われました。 

過酷な歴史に翻弄され続けてきたウクライナの男性たちは、自分の人生は自分一人しか歩めない、他者に人生を歩むことができないという信念で、〈自伝〉を書き始めるのだと。 そのために文章表現を他の作家から学ぼうと読書に余念がない。自分の体にピッタリ合う服(本)を常に捜し求めているわけで、聖書を熟読する人も多いといいます。

プーチンは、ロシア皇帝のようになりたがっているのでしょう。将来の歴史書に「ロシアの領土を統合した偉大な人物」と書かれることが、彼の野望に違いありません。 そのためにはロシア帝国時代の建国神話や価値観を復活させる必要があり、だからキエフを支配下に置く必要があったのでしょう。スターリンと同じように、プーチンにとっても、ウクライナは独自の歴史や文化、言語は存在してはならないもの。 

一方で、ウクライナ人たちは、ロシアではなく、自分たちこそがキエフ大公国の真の継承国だと考えている。キエフ大公国と現代ロシアを切り離して考え、独自の歴史と文化と言語を示す必要があるのだと。 双方、互いに相容れないこれらの考えがあるかぎり、軋轢の種が消えてなくなることはないでしょうね。 

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【ウクライナの首都キエフの美しい夜景】