先日、ウクライナ人の自伝について書きましたが、ウクライナの隣の国、ポーランドの人たちの自伝にまつわるお話をしたいと思います。

ヨーロッパでは、自ら自伝を書いたり、〈オーラルヒストリー〉という方法で自伝を著したり、日本では比較できないほど自伝に対するこだわりが強い。この〈オーラルヒストリー〉というのは、私たちが現在展開している、聞き書きによる自伝の制作とほぼ同じものですね。

ヨーロッパはキリスト教が主たる宗教であり、その歴史と文化は、宗派それぞれ違えども、今日まで各国で広く伝わってきました。なぜ、自らが経験した激動の人生模様を書き綴り後世に伝えようとするのか。そこには「神への告白」があるのです。

このことについて、これまでもいろいろ述べて来ましたが、日を改めてより詳しくお話したいと思います。

ところで、ポーランドでは第二次世界大戦後に「ライフストーリー運動」というものが展開されてきました。これは、戦前のポーランド政治社会の情勢や、ナチスドイツ占領時代の体験に対する議論が奨励され、回想録を書く事ことが重要な自己表現の形式となったからですね。

この成功の鍵になったのが、全国の新聞やラジオ放送を通じて作られた「回想録コンクール」でした。年に2,3回、大きなテーマが設定されて、優秀な作品には賞が与えられた。そして、それらをまとめて本として出版されたのです。

今日まで、応募された作品は数十万件にのぼり、それを収めるための図書館も特別に作られたとか。ポーランドの人々が、自伝や回想録を書くことは、新しい国民的な生き方として理解されるようになり、他の共産主義国や西側諸国にも大きな影響を与えたようですね。

歴史を書くことへの国民の熱意を、形として表すことに成功したポーランドは、工場や炭鉱、製鉄所などで、集団的な回想記述グループが生まれた。〈オーラルヒストリアン〉と呼ばれる歴史にたいへん詳しい学者たちがテーマを与え、語ったり書いたりしながら、その成果を本にして出版することの手助けをしたのです。

それら労働者グループは、互いに協力して、仕事を終えてから定期的に集まり、1,2時間議論して、自らのライフヒストリーを書き示し、進めていったようですね。。

ウクライナにしてもポーランドにしても、かつてロシアやドイツなどの大国から侵略され、虐げられ、国民が途端の苦しみを味わってきた歴史的事実を、子孫に語り継いでいこうとする心意気が感じられます。

他の西洋諸国も、キリスト教を礎として、このような長きに亘る苦難の歴史を語り書きの遺そうとする、謂わば〈自伝文化〉というものを築きあげてきました。

これが「西洋に自伝あり」と言われる所以ですね。