口述自伝を制作する上でもっとも核心となる〈書き書き〉。この〈聞き書き〉の理論や進め方、方向性などについて、ジャーナリストの和多田進さんや作家の小田豊二さんらが書かれたものを研究し参考にしながら、現在、独自に編み出した手法で、口述自伝制作〈ライフヒストリー良知〉事業を展開しています。

そんな中で、小田さんが常日頃から強調してるのが、「語り手と聴き手というのは、いわば〈太鼓と撥の関係〉である」ということです。

顧客である語り手が太鼓で、聴き手であるライフヒストリアンが撥になってその太鼓を叩く。いったいどんな音が出るのか。それは叩き方や撥さばきで決まりますね。大きな音が出るのか、小さい音か、はっきりした音か、ぼやけた音か。もちろん叩く場所にもよります。

ただ音が出ればよいものではなくリズムが必要です。実際、このリズムというものがたいへん重要で、撥さばきが良ければリズムも軽やかになっていく。

撥が変わると出る音も違ってきます。つまり、聴き手が変われば語り手が話す内容も違ってくるということです。撥が細く小さいといい音が出てこないだろうし、反面、これまでなかった繊細な音が聞こえてくるかもしれない。

太鼓の音は撥次第、つまりは語り手は聴き手次第、同じ話でも聴き手によって、話し方が異なるということなのです。

では、太鼓である語り手を、どう叩けば、いい音を奏でることができるのでか、つまり、どうすれば、語り手に気持ちよくしゃべってもらえるのでしょうか。

このとき、大切なのは、撥である聴き手の〈聞く力〉ですね。心理学やカウンセリングをベースにした、次のような聞き方が必要だろうと思っています。

1.自分が知っていることでも、さらに教えてもらうという気持ちを持って聞く。
2.あれこれ広くたくさんの話を聞くのではなく、ひとつの話を深く集中して聞く。
3.自分の脳の中に映像を映し出すような感じで、ビジュアル的な雰囲気をもって聞く。
4.相づちを打つ撥さばきが重要で、話しに弾みをつけながら聞く。

そんな中で、一番大切なのは、語り手にとって「この人は話しやすいなぁ」と思ってもらうことなのです。

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