聞く・聴く・訊く

〈口述自伝〉の制作では、語り手であるお客さまからの話を聴く際に、ライフヒストリアンは、〈聞く力〉と〈聴く力)、それに〈訊く力〉をしっかり持たなければなりませんね。

この分野で、〈きく〉ということを漢字に当てはめてみると、〈聞く〉〈聴く〉〈訊く〉の3つに分けることができます。

〈聞く〉とは耳にする、〈聴く〉は耳を傾ける、そして〈訊く〉は尋ねる、こと。

そのなかで、〈訊く〉ことは、顧客の記憶を蘇らせことにほかなりません。年齢を重ねていくと、長期記憶のひとつである〈エピソード記憶〉がとぎれとぎれになり、断片的なことしか思い出せない。本来、物語として、心や脳の中に残っているはずなのに忘れ去っている。

それを〈訊く力〉によって、顧客が思い出すきっかけやヒントを与え、海底に沈んでいた〈記憶の島〉の数々をつなぎ合わせ地続きにし、〈記憶の大陸〉として物語を再現していく。

そうなんです、〈訊く〉というのは、いわば〈記憶の島〉を浮かび上がらせるために海面の水位を少しずつ低下させていく行為であると言えますね。

では、〈訊く力〉、〈問いかける能力〉とは、いったいどのようなものなのか?

それは、顧客に語りに共感しながら、心の中を慮って、過去の記憶を引き出していくための的確な質問であり、顧客の生活や生きざまを把握し、その当時の時代背景や社会情勢を知識として持ちながら、知恵を持って問いかけをすること。

だけど、もっとも必要とされるのは、おそらくライフヒストリアンの〈人間的魅力〉でしょう。これがなければ、どんなに知識が豊富で優れた〈訊く力〉や〈聴く力〉があっても、インタビューは成功しませんからね。

その域まで、まだまだ。

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