前回お話したように、「高齢者が昔のこと思い出し語ることで、楽しい気分、幸せな気分になってもらう」こと、これが〈回想法〉の目的ですね。

私たちが、現在展開する口述自伝制作〈ライフヒストリー良知〉においても同様に、「自分の人生を語ることは、このうえなく気持ちよく楽しい。私たちライフヒストリアンが良き聞き手となり、みなさまが経験されたさまざまな出来事を思い出深く語ることで心が豊かになり、自信が得られ、未来への希望を持って頂く」ことをミッション(使命)のひとつとして謳っています。

双方とも“きく”という共通点があります。この“きく”には、聞く・聴く・訊くの3つの意味が含まれて、〈回想法〉なら介護士や心理カウンセラーの、〈口述自伝〉であればライフヒストリアンの〈きく力〉がとても大切になるのです。

また、双方とも、その方の人生の歴史や物語を共感しながら聞くことによって、脳に刻まれている昔の記憶を蘇らせます。この過程で脳の前頭葉をはじめ各部位の活力を高め、記憶力や注意力などの強化をはかりながら、老年期最大の課題のひとつ、認知の衰えに対する予防を行っていくことも共通するところですね。

では、相違点について挙げてみましょう。

〈回想法〉は語られたことの事実をあまり問いません。また記録に残すこともほとんどありません。ただ、前回、医療的な方法として〈ライフレビュー〉のお話をしましたが、ごくまれに〈ライフレビューブック〉というものを作成することがあります。

一方、〈口述自伝〉は、できる限り顧客の語りに事実を求めます。そして、話す内容はすべて録音し、文字起こしの作業をして文章化します。それをわかりやすく書き著しホームページ上に掲載したり、書籍や電子ブックにして発刊します。

また、〈回想法〉は基本的に当事者から費用を負担してもらうことはありません。しかし、〈口述自伝〉の場合は、事業として行うため、契約した価格でその方に制作代を出して頂くことになりますね。

また、私たちライフヒストリアンは上記のミッション以外にも、次のようなカスタマー・バリュー(顧客の価値)という視点から、自伝制作の提案をしています。

①自分がいかに頑張ってきたかを書き著す。
②自分の歴史的な役割が何かを書き記す。
③自分の生き様や体験を後世や子孫たちに書き遺す。

これらは、〈回想法〉にはほとんどないところですね。