高齢者に対する心理療法のひとつとして〈回想法〉があります。ひとことで言うと、「昔のことを思い出し語ることで、楽しい気分、幸せな気分になるための方法」ですね。
〈回想法〉は、高齢者施設で主に介護福祉士が聞き役になる場合が多いけれど、時にはボランティアの人たちが関わることもあります。〈回想法〉は、〈みんなと語り合うグループ回想法〉と〈1対1で行う個人回想法〉で構成され、レクレーションとして行う場合と医療的に行う場合に分けられますね。
医療的と言うのは、高齢者のうつ病や認知症などを予防したり改善させたりすることで、〈ライフレビュー〉とも名付けられています。要するに脳の活力を高めていくためのアクティビティ(活動)のことなのです。過去を回想するにあたっては、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を刺激することが多い。ライフレビューの聞き役は主に心理カウンセラーが担います。
例えば、〈回想法〉によって故郷の風景を思い出し、子供の頃一緒に遊んだ友だちの声が聞こえてきたり、お母さんのことを思い出すと服の匂いや手触りが甦ってくる。懐かしいという感情があの頃に戻してくれるのです。
方や〈ライフレビュー〉は、過去を回想することにより、自分の人生をひとつの物語として系統立てていくことで、自分というものがずっと続いているんだということを自覚することができます。いろんな出来事があったけれど、それは自分にとって意味のあることだったんだという自己肯定感が生まれて、自信が持てるようになる。さらに、いずれ訪れる死への不安を和らげる効果もあるのです。
認知症の改善ということで言えば、高齢者が認知症によって落ち着かなかったり、不穏な状態になった精神状態を安定させることができる。記憶のことで言うと、認知症に羅患している高齢者にとっての記憶は言葉ではなく映像なので、それに伴った方法で進めていきますね。
この〈回想法〉や〈ライフレビュー〉と、私たちの展開する〈口述自伝制作ライフヒストリー良知〉における聞き書きとは、その方法について似ているところがたいへん多いのですが、その共通点と相違点について、次回お話したいと思います。