顧客の理解/高齢者のこと(1)
現在、優れたライフヒストリアンをマーケットに送り出すためのマニュアル作りを行なっていますが、その中でもっとも重要な項目のひとつが「顧客の理解」ですね。
私たちのお客様は、高齢者の方々です。そのため、高齢者の心理や行動様式などを把握する必要があります。
もちろん、一口に高齢者といっても、現在、3,600万人以上に及ぶ高齢者の方々の性格や気質は様々であり、まさに十人十色です。
法的に65歳以上の人たちを高齢者と呼びますが、60代と70代、80代と90代とでは、同じ高齢者といっても、その方の健康状態や社会生活、家族構成、ものの考え方や未来をみつめる目などが異なります。
それらを踏まえた上で、顧客となる高齢者について、相対的に理解するための研究を進めていますが、これからその成果を何回かに分けて書き記していきますね。
★もっとよく知ろう高齢者のこと
(1)人はいつから高齢者になるのか? 高齢者は自分を老人だと思っていない。
年々、日本人の平均寿命は伸びていく。厚生労働省の「令和2年(2020年)簡易生命表」によると、2020年の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳。女性は世界第一位、男性は世界第二位という長寿国になっている。
現在の日本の医療保険制度では、65歳~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼んでいる。制度上は65歳以上の人は高齢者と位置付けられているが、60歳代で自分のことを『老人』と思っているいる人は少ないだろう。
今の高齢者が若々しく見える理由のひとつは、食生活や衛生状態が向上したことにある。世の中が豊かになって栄養を十分に摂取できるようになった。
上下水道が整備され、予防摂取も普及して感染症が減少。健康への意識が高まり、定期的に運動したり、酒やたばこを控えたりする習慣が広まっている。
日本人が長寿になったとはいえ、若い時代が長く続くようになったわけではない。年を取ってからの老化のスピードが遅くなったのだ。
人が成長したり老化したりする速度は、もともと一定ではなく、生まれたから10代ぐらいまでは心身ともに急成長し、その成長した状態が長期間続いた後で老化が進行し始める。
今や、80歳ぐらいまで元気な状態が続いていて、その後衰えていく人が多い。
(2)本人の主観年齢は実際の年齢より若い。
最近の高齢者の活躍には目覚ましいものがある。その一方で、身体能力が衰えているにもかかわらず、無理な運動をして体を壊してしまう高齢者もいる。
実際の年齢のことを〔暦年齢〕というが、それとは別に、自分が感じている年齢のことを〔主観年齢〕という。
自分の主観年齢が何歳かについて調査したところ、60~70代の人の〔主観年齢〕は、〔暦年齢〕に比べて6~7歳若いという結果が出ている。
40歳代で4~5歳の差、50歳代で6歳の差なので、年齢が高くなるに従って〔主観年齢〕との差が開いている。
そして、多くの人は自分のことを〔暦年齢〕ではなく〔主観年齢〕で捉えていることがわかった。〔主観年齢〕に沿った行動をとろうとするのだ。
外見に気を配るのを〔主観年齢〕を考えてのこと。〔アンチエイジング〕が流行しているのも〔主観年齢〕を意識してのことである。
(3)主観年齢が若いからポジティブに生きられる。
かつては、老人になったら暦年齢に相応しい落ち着いた行動をするのがよい、という価値観があった。
だが今は、年齢を理由に高齢者が行動を疑問視されることは減って、むしろ暦年齢よりも若々しいほうが良いのではないかという価値観に変ってきている。
「老い」は否定的に捉えられ、避けるべきものだと考えられるようになってきたのだ。
〔主観年齢〕が若いということは、高齢者がポジティブに生きるための必要な心理なのだ。〔主観年齢〕が若いからこそ、10年後も自分は十分若いだろうと思い、将来への希望や展望が持てるのだ。
高齢者は年を取るにつれて、自分の欲求を満たすために周囲の状況を変えるのではなく、周囲の状況に合わせて自分の意識を変化させることで、ポジティブ感情を保とうとする。
なので、自分の中にある幸福感が減ってしまうことはない。
また、「老い」は否定的な面が取り上げられやすいが、肯定的な面があることも忘れてはいけない。高齢者は若者にはない能力があることは多くの人が認めている。
それは、年齢を重ねることで人間的に豊かになり、思いやりや包容力、深い洞察力などが身に着くからだ。
年齢とともに体の機能が衰えて生活圏が限られていくが、孤独感や苦しみを感じるのではなく、自分の心の中の世界を深めていくことができる。
精神的に豊かで幸せに生きている高齢者は、若い世代に希望を与えてくれる存在だといえるのである。
ー続くー