大学の教授で心理学者の佐藤浩一さんによると、記憶、特に個人の自伝的記憶の研究と高齢者の回想の研究は、お互いにまったく別の領域として発展してきたそうです。

自伝的記憶研究では特定の出来事の思い出だけを求めることが多く、一方、高齢者の回想では個別の出来事だけでなく、その背景となった状況や歴史的な事実、出来事から引き出された人生観や過去と現在を対比した価値観なども語られます。両者にはこのような違いがありますが、最近ははっきりとこの二つの研究を結びつけていこうとする試みが始まっていますね。

ところで、昔、米国のウエブスターという学者が回想機能尺度というものを作って、「私が過去を思い出すのは○○ため」という8項目を次のように呈示しています。

1.退屈の軽減
①退屈をまぎらわせる。
②することがなかったり、落ち着かない時間をつぶす。

2.死への準備
①自分の人生を十分に生きてきたので、穏やかな気持ちで死を迎えることができるということを納得させてくれる。
②過去を思い出すと死への恐怖が薄れる。

3.アイデンティティ
①自分のことをもっと理解する。
②過去の自分を思い出すと今の自分が何者であるかがわかる。

4.問題解決
①現在の難問題を解決するのに役立つ。
②現在の問題を解決するスキルが自分に備わっていることを思い出させてくれる。

5.会話
①会話を楽にする。
②新旧の友人たちの間につながりを作る。

6.親密さの維持
①いなくなった人を思い出す。
②死んでしまった愛する人の思い出をいきいきと保つ。

7.苦痛の再現
①昔受けた傷の記憶を忘れない。
②つらい記憶を蘇らせる。

8.情報伝達
①若い家族に、自分が若くて今とは違う時代に生きてきたときの生活を教える。
②若い人に文化の価値を教える。

過去を回想するということは、いろんな形で自分と結びついて、その大切さがよくわかりますね。