昔は、高齢者が過去のことを振り返ることはそれほど評価されませんでした。老年学の研究者たちは、過去に生きることは病的で現実から引きこもることであり、時間の経過と年を取ることへの否認、或いは若い時代への退行と見なしていたのです。
発達心理学で有名なエリク・エリクソンは、「過去への回想によって心の変化を受け入れることは、アイデンティティを維持するために不可欠なことであるかもしれない。」と指摘してきたものの、あまり一般的ではなかったようですね。
そうした中、アメリカの精神医のロバート・バトラーは、高齢者の精神的な健康状態を調査するためにレコーダーにインタビューした内容を録音し、「過去を回想することは、治療的効果がある」と確信したのです。
バトラーは、回想が自己のアイデンティティーを確立するため、また高齢者の自立を助けるための手段になることを見出しました。また、グループでの語りを通じて、「回想は、自分たちの人生に困難をもたらし、心を捉えている様々な問題を振り返ることによって過去と現在と未来を統合しようとする意志をもたらす。」と結論づけたのです。
バトラーは「老人たちが、自らの道徳的経験を若い人たちに伝えたいと思う人生のある時、痛みを伴って学んだことを考え、決して良い親ではなかったことへのこだわりからくる罪の意識、深い悲しみ、不安定さ、恐れ、そして心配について考える機会が必要だ。」とも主張しています。
現在、介護施設の最前線では回想法を行うケースが増えています。僕の経験から、回想法は高齢者の心身の健康を維持するためにとても効果的で大切なアクティビティであること、絶対間違いないですよ。